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小説の墓場

剣舞の錬金術師 第四話「国家錬金術師試験」

第四話「国家錬金術師試験」

 

そして、時間が達、試験前日。思わぬ遭遇者に会うことになる。

***********

 

エルリック兄弟のことで、それは前ぶりもない状態だった。マスタング大佐がセントラル勤務になってからのことだ。彼らとの初遭遇。

 

 

「くそー。大佐に会わないといけないのかよ。東方司令部ずーっといればよかったのによー」

「仕方ないよ兄さん、中央にくるなら一言かけてくれって大佐が言っていたじゃないか」

「にしても、懇切丁寧に手紙で送ってくることなんか、珍しすぎて雪でも降るんじゃないか?」

「ハハハ。そうだね。降るかもしれないね」

「おい、アル、そこは笑う事じゃねーだろ」

 

そう、兄ことエドワード・エルリックと、弟のアルフォンス・エルリックは話していた。彼らがここセントラルシティに来ることは、ちょうど二ヶ月前に、大佐が手紙で通達をしていたころだ。

 

そしてマスタング大佐の部屋の前まで来た。

 

「来ちまったな」

「うん、そうだね」

「入るぞ」

「うん」

「失礼しまーす」

 

ガチャ・・・

 

「ん・・・よう鋼の・・・」

「大佐ゲンキデスネ」

「なにを、片言でしゃべっているんだ」

「柄でもないのに、手紙で通達するなんてことをしたから」

「あの手紙か・・・まあ実際に書いたのはホークアイ少尉だがな」

「まあ、そういうことだと思ったよ。大佐があんなきれいな字を書けるわけないしね」

「ふっ。そうだな。で、あの手紙の内容通りに紹介したい人がいるのだよ」

「俺に紹介するということは、身体を元に戻す手がかりを知っている人物ということでいいんだよな」

「ああ、ヒントにはなるかもしれない存在だ」

「ヒントかぁ。まあ今は藁にでもすがる気持ちだしな。それでその人物って?」

「君の・・・右の机に座っている彼がそうだ」

 

すると、エドは首を右に向けると、一人の男性が書類を高速で処理していた。

 

「なっ・・・・・・なんつう早さだ」

「彼はな、北方司令部の管轄にあるブリックス要塞の将軍の側近として三ヶ月前まで任務についていたのだ」

「って、それで捕まえてきたのか?大佐が?」

「いや、彼が国家錬金術師の資格を取得するためにやってきたのさ。三ヶ月限定の期間、ここで私の部下としてな」

「へー。側近まで出世した人が、身の危険を味わう国家錬金術師になんでまた?」

「それについては、本人に紹介してもらおう。マイルズ、説明してくれないか?」

 

と、30センチもあった書類の山はあと数枚にまで終わっていた。その作業を止めたマイルズは、エドワードに向き合った。

 

「・・・・・・!その目は・・・」

「初めまして。エドワード君。私はマイルズ・アインシュトー。この片目の通り、私はイシュヴァール人の血筋を継承している。そしてもう片方の目は、ある研究の結果、曇りガラスのような目になってしまったわけだ」

「・・・・・・その研究とは何なんですか?」

「それは、アインシュトー家に代々継承されている、秘術だ。そして錬金術との融合術の探求さ。まあ、これ以上の話はエドワード君の手の内を明してもらわないと提供はできないがね」

 

その会話にロイも加わった。

「その研究とやら、私も是非聞きたいな」

「ぜひ、その続きを聞かせてください。俺の手の内も明かしますから」

「いいだろう。では、大佐、部屋を変えて話しましょう」

「ああ、いいだろう。隣の休憩室なら四人は座れるな。」

 

そしてロイとマイルズ、エドワードとアルフォンスの四人は隣の休憩室に移動した。

 

「では、まずエドワード君、君の手の内を話してくれないか?」

「はい、俺の話からですね。俺は、錬金術の禁忌、人体錬成を行いました。その結果、俺は右腕と左足を失いました。そして」

「そして、僕は身体を失いました。兄さんが魂の錬成を行ってくれて、この鎧につなぎ止めてくれました」

「ふむ。つらかったのだな。よくその若さでそこまでできたことは、驚嘆する。その若さで国家錬金術師になるための素養はそこから来ているのだな」

「・・・・・・はい。そのために、元の身体に戻るために旅をして、戻れる可能性のあるものを探求しているんです」

 

「そうか。わかった。私も話そう。話は長くなるがな。では実際にその研究成果を披露したほうがわかるだろう。大佐、そこの棚にある花瓶をとってくれませんか?」

「この花瓶をか?これをどうするのだ?」

「今から、その花瓶をダイヤモンド製の花瓶にします」

「ダイヤモンドに!?すごい!是非、見せてください!」

 

ロイは、使われていない陶器製の花瓶をマイルズに渡した。

 

「では!・・・・・・Trace on....」

 

花瓶は、ダイヤモンド製の花瓶に強化された。

 

「できました。これを、エドワード君、"理解"してみろ。さすればダイヤモンドであることがわかるだろう」

 

マイルズは、エドに強化した花瓶を手渡した。

 

「どれどれ・・・・・・すごい!本当にダイヤモンドだ!」

「エド、私にもさわらせてくれ」

「はいはい。大佐、よっと・・・」

 

フリスビーのように投げ渡したが、大佐の手の中に落ちたときは重さで床に落としそうな様子であった。

 

「な・・・に・・・この重さと質感、材質はダイヤモンドだな。花瓶がダイヤモンドになってしまったのか。等価交換の原則は無視してしまっているのか?」

「そう。これが私の秘術、魔術の一端です。そして錬金術と魔術の融合系である"錬成魔陣"の基礎でもあります」

 

「その魔術には、失った身体を元に戻すようなものはあるんですか?」

「ふむ。そうだな。魔術では無理だが、錬成魔陣ならば可能かもしれない・・・・・・」

「えっじゃあ!その技術を習得できれば、元の身体に戻れるんですね!」

「いや、それはできないかもしれない。というよりまだ研究段階のものでね、生体錬成は実験できていないんだよ。小動物の実験はこれからなのさ」

「・・・・・・でも、可能性はあるということで大丈夫ですね」

「ああ、そのことについては可能性を信じてもいい。魔術には成長する人形を義肢にして本来の身体と同様の効果を発揮するものもある。その発展系ならば、可能となるかもしれない」

「へぇー!この世界にはまだまだ未知なる事があるんですね」

「この研究、明日の試験当日にでもまた、披露しよう」

 

「そうか、明日なんですね。試験は・・・」

「そうだ」

「ということは、ここで暢気に話してて大丈夫なんですか?」

「いや、魔術による無意識下による勉強をしているのでな、錬金術の勉強は今もやっているのさ」

「・・・すごい!」

「兄さん、さっきからすごいしか言っていないよ・・・」

「だって、アル、すごいとしか言いようがないじゃないか。目の前に可能性があるのなら、それを全力で吸収するのが俺のやり方だ。可能性の芽を摘むようなことはしないさ」

「それは、わかるけど、すいません、マイルズさん。兄はこういう性格なので、急かすようなまねをしてすいません」

「いや、いいさ。誰だって同じ反応をするだろうよ。錬金術師ならばな」

 

大佐は何か考え事をしているようだ。

「ふむ。その魔術、私たちでもできるのだろうか?・・・」

「いえ、それはできないんですよ」

「なぜだい?確かに代々継承されているということは何かありそうだが」

「そうです。これは遺伝でしか継承されないものなんですよ。しかし、錬金術との融合系である錬成魔陣は、錬金術師ならばほとんどの人が習得が可能になる可能性が高いです」

 

エドワードが興奮の世界から戻ってきたようだ。

「・・・・・・その錬成魔陣を教示願います!お願いします!」

「その思いは、明日の結果次第だから、待っててもらいえないかな?」

「あ、そうですよね。すいません」

「もう、兄さんったら・・・」

 

大佐は考え事がまとまったようだ。

「よし、鋼の、明日の試験には出席するのか?」

「それは、当然ですよ大佐。どんなことができるのか、実技で見れるのなら最高ですよ!」

「僕も見れないでしょうか?」

「ふむ。アルフォンス君は一般人だからな、見れるかどうかは上に相談しないと行けないが、多分事情を話せば大丈夫だろう。関係者として見れるかもしれん」

「おぉ!ありがとうございます。マスタング大佐!」

「まあ、ギャラリーが増えることは、構いませんがね」

 

マイルズはやれやれという態度で、喜んでいるエルリック兄弟を見ていた。

 

<マイルズ、明日の試験当日の前に、君の錬金術師としての鍛錬をこの後にやるので、覚悟しておいてくれ>

<ん?私もやらないといけないのか?>

<そりゃあ、そうだろう。魔術を使うのならば私が表にでるが、錬金術の行使は君が行うんだ。君が表にでているとき、身の危険をカバーする際に時間差があってはダメだろう>

<しかし、できるかどうかは、わからんぞ?>

<大丈夫だ。成功率は100%だ。私が行ってきたのだから、身体を共有している利点だな>

<そうか。確かに知識や手順が浮かんでくるな>

<だろう?ならば、あとは行使する自信と勇気を少ない時間だが、持つことだ。明日の試験に必要な時は、変わってもらうぞ。その時は、サイサリスの名刀"イシュヴァール"を錬成してくれ。この指定の錬成陣を書き、床石から錬成してくれ。その後は私が行おう>

<了解した。では表にでよう>

 

マイルズは、立席し、ドアに向かった。

 

「では、大佐、エルリック兄弟、私はこれから明日の予行訓練をしてくるので、先に失礼します」

「ああ。了解した。明日、存分に力を披露できるようにしておいてくれ」

「はっ!」

「マイルズ小佐、明日の試験、楽しみにしていますよ!」

「ありがとう、エドワード君。では明日」

 

マイルズは、休憩室を後にし、残りの書物を20秒くらいで終わらせた。

 

「ではお先に失礼します」

 

そう言いながら、部屋を後にした。

 

休憩室では、マイルズが去った後もマスタング大佐とエルリック兄弟が話していた。

 

「大佐はマイルズさんの、錬成とか魔術とかは見ていないの?」

「以前、見せてくれたことがあったな。あれは魔術だったのか、研究途上の錬成魔陣だったのかはわからなかったが、異様な手順で錬成していたな。通常、錬成光は青いのだがあれは赤色だったよ。だから特に覚えているのだがな」

「赤色・・・まさか・・・もっと詳しく教えてくれますか?」

「ああ、あの錬成は、何もない虚空から剣を一振り出現させたんだ」

「それは、もしかして、賢者の石じゃないでしょうか?」

「確かに!リオールの町であのエセ教祖が使っていた石のことだね!兄さん!」

「ああ、そうだ。マイルズさんはそれを隠し持って魔術というものをやっているかもしれない」

「確かにそれは、一理あるな。あれほどの術が今まで秘匿されてきたとは信じがたいことだからな。魔術というもので私たちを欺いているのかもしれない」

「ふふふ。面白くなって来やがったな!アル!」

「そうだね。兄さん」

「あ、そうだ。明日の場にアルフォンス君を同席させるんだったな。今からちょっと行ってくる。ではな、鋼の・・・」

「ああ、大佐。明日が楽しみですね」

 

そうだな、という顔でマスタング大佐は休憩室とホームを後にした。

 

「兄さん、この花瓶確かにダイヤモンドだね。でもあの時の錬成光も何も光らなかったよね」

「・・・・・・そうなんだよな。あの時、なんらかの反応がしている感はあったんだけど、何もなかったよな・・・本当に魔術は存在するのかもな。なら、賢者の石を使って俺たちを混乱させる手を使うのは、どう考えてもわからないな。手の内をすべて公開してくれたんだろうけど、まだ何か隠しているような、そうじゃないような気がするんだよな」

「そうだね。気がついたんだけど、僕らはマイルズ小佐の錬金術師と軍人としての顔以外は知らないって事だね。別の顔にもしかしたら秘密が隠されているかもしれないね」

「別の顔か・・・そうかもな」

 

すると、マスタング大佐が帰ってきた。

 

「アルフォンス君、今回は特別に許可だそうだ」

「やった!兄さん!」

「おーよかったな、アル!」

「では、明日、大総統府の謁見の間にて行うからな。遅刻はするなよ」

「ふっ・・・目的の最短距離が見えるかもしれないんだ!大佐よりも早く駆けつけるさ!」

「頼もしい限りだな。そうそう、さっきここで話したことは、彼には話すなよ。絶対にだからな」

「ああ、大佐との秘密にするよ」

「了解した。では、明日」

「明日」

 

そうして、エルリック兄弟は宿に帰って行った。

 

マスタング大佐は、軍務が解かれる20時までの間、今日あったことをまとめていた。魔術、赤い錬成反応、錬成魔陣、、、上げたらきりがない一日だったこと。もしかしたら、賢者の石を持っているかもしれないということ。

 

「ふむ。一筋縄ではいかない相手だな・・・彼と仕事をしていても、気づかなかったことばかりだ。やはり彼は何かを隠している可能性が高いな。あの朱眼の目に、灰色のくすんだ目。そこに何かがあるような」

「考え事ですか?大佐」

「少尉か。いや、詮索だよ。マイルズ小佐のな」

「そうですか。小佐が何かを隠していると?」

「聞いていたのか。まあ、彼の別の顔を見たことがないものでな、何かを隠しているようだったと思っただけさ」

「確かに、小佐はあまりプライベートなことは一切口にしないタイプですからね」

「そうなのだが、彼の場合はそれが限度を越えているようなのだ。まるで内なる声に耳を傾け過ぎているかのようだ」

「ブリックスの掟がそれほど厳しいことの現れでは、ないのですか?」

「まあ、そうなのかもしれないが、人は時として環境に支配されやすい。それがブリックスにおいては、隣国ドラクマとの戦場だ。だがここセントラル、事件や事故はあるにせよ、戦場ではない。平和な日々なのだから、心も緩くなるものだが、彼は変わらない」

 

「それは、彼が今は大佐の部下だったとしても、北方司令部に帰ればアームストロング将軍の側近になりますから、その威厳を保っているのでしょう。三ヶ月限定の配置ですから」

「うむ。それも一理あるのだがな、何かそれだけではないような気がするのだ」

「珍しいですね。"勘"を頼りにするとは」

「何かは説明できないが、錬金術師になるものは、色々秘密を隠し持っているようなものだからな、その勘が働いたというわけだ。まあ明日になれば、わかるかもしれんな」

「そうですね。もうじき20時ですね。帰りの支度をしてきます」

「ああ、長話に時間を割いてすまない」

「いいえ、彼のことを知れたのでよかったです」

「そうか。では明日、大総統がどのような銘を与えてくれるかだな」

「ですね」

 

ここまでが、大佐の話だ。時間は戻り、マイルズ小佐の錬金術のトレーニングの時間まで戻る。

 

場所は、セントラル郊外の林。市街では適当な場所が無かったからだ。ここならば、思う存分錬成ができる。錬成しても隠蔽処置をすることもない。

 

<エミヤ、ここならいいだろう?>

<ああ、いいぞ。錬成してみるんだ>

 

マイルズは手短な木に、チョークで錬成陣を書いた。そしてそれに手をつけて、錬成した。木より歪な一振りの木刀が現れた。

 

「これが錬金術か。それにしても細かい細工まで忠実に再現されているな」

 

<まあ、それは私の意向でね、細部にまで再現するのが私の好みなのさ>

<そうか。にしても最初っから成功するとはな>

<今の錬成は私の補助があったからな。実感をまずはもってほしいからさ>

<そうか。では、これを強化してもらえないか?>

<おやすいご用だ>

 

エミヤは表面に出てくると、マイルズが錬成した木刀を、製鉄に強化した。木材であったものが、徐々にサーベルへと変わっていく。そして、

 

「真名・イシュヴァール!」

 

真名を解放した。この名剣はまだ歴史が浅いために真名解放をすることができた。またこの名剣には少しばかりであるが、運命を引き寄せ、勝利させる効果がある。"約束された勝利の剣"ほどではないが、事実をねじ曲げて勝利を呼び込む効果がある。

 

国家錬金術師の戦場への投入を彷彿とさせる、辛辣な状況を呼び込むことに長けているものであることは確かだ。

 

表面の歪な刻印がそれらを物語っている。人が苦しみもがく顔のような刻印が剣の背に彫られている。内乱の声なき人々の悲しみと共に存在する剣である。

 

それゆえ、幸運な効果のほかに、使い手に人々の悲しみを彷彿させる惨状を想起させる呪いの効果があると言われている。その惨状は使い手によって変わる。

 

真名解放には、魔力が必要となり、魔術が使える者にしかできない芸当だ。真名解放をすると、そのものの真価を発揮することができ、本来の性能や効果、呪いの類を実現させることができる。伝説や神話で登場した剣類がその典型だ。もちろん、真名解放せずとも使うことができるが、強さはランクダウンする。

 

ちなみに、F・E・D・C・B・A・S・SS・SSS・Exの10段階に分かれている。

 

「エミヤ、これはランクでいうと何に該当するのだ?」

 

<そうだな。効果が効果だからなAランク相当だな>

<そうか。名剣と言われるゆえんが、ランクなのだろうな>

<ああ。では、次はマイルズ、君一人だけで錬成してくれ。今回は補助なしでやるのだ>

 

「了解した」

 

そうして、マイルズは、手慣れた手つきで錬成陣を木に書き、真剣な眼差しで手を木につけた。

 

すると、さきほどと同じ、木刀のサーベルが現れた。さきほどののような細かい描写ではなく、荒削りのサーベルが現れた。

 

「どうにかできたな。エミヤ、これから強化することで、詳細な文様は付加できるのか?」

 

<ああ、できる。故にマイルズはただ錬成することだけに集中してくれ>

<そうか。安心した>

 

マイルズは、さらに同じ木に錬成陣を描写し、木刀を錬成した。三つ目の木刀は、前の木刀よりもサーベルとしての精度があがっており、強化したとしても良質なものになるだろう。

 

<おお!成功率が高くなっているな!すごいじゃないかマイルズ>

<うむ。これもすべてエミヤの経験があったからに他ならないさ>

<謙遜だな。まあ。いいか。明日に向けてこれくらいでいいだろう。明日万全な状態で試験に挑むために今日はもうこれくらいでいいだろう>

<強化した剣はどうするのだ?>

<それは護身のための剣として帯刀しておくんだ。真名を解放した剣だから、帯刀するだけでもプラスの効果を発揮する>

<そうか。了解した>

 

マイルズは、錬成した木刀を破壊して、郊外の林をでて、宿に帰って行った。

 

 

 

その姿を遠くから盗み見している存在がいた。

 

「あれが、大総統が特別に許可した人間ね。ちょっと独り言が多いけれど」

 

女は、さきほどマイルズがいた木の前に移動した。錬成反応した木を見るや否や、その反応筋を細い指先で沿って触った。

 

「うふふ・・・良い腕しているわね。あの人間。マイルズ小佐っていったかしら。この腕なら試験は合格ね。人柱確定だわ。楽しみね」

 

女はそれっきり、姿をくらました。闇に溶ける黒い服を着た女だった。

 

 

 

翌日・試験当日になった。

 

朝の6時である。

 

マイルズは大総統府近くの軍所属の寄宿舎より起きでて、9時からの準備をし始めた。

 

「エミヤ、心の準備は万端か?」

 

<ふっ。それは私の台詞だぞ。マイルズ。君こそどうなのだ?>

<私も大丈夫だ。心の準備はとうに出来ている。筆記試験は頼んだぞ?>

<了解した。別に筆記試験は満点をとっても構わないだろう?>

<・・・・・・ああ。よろしく頼むぞ>

 

そして、午前中の実技試験会場に、入った。8:30だ。

 

先に閲覧席にエルリック兄弟と大佐が来ていた。

 

「よう、大佐。お先に失礼しています」

「くっ早いな。まったく。まあ、いいがな。これからが楽しみな時間だ。彼の錬成反応をよく見ておけよ」

「はい、わかっています。兄さん、よくみておいてよ」

「わかっているさ。アル」

 

30分の準備の間、マイルズはイメージトレーニングとして心の中において錬成をしていた。

 

<仮想訓練場になるとは思わなかったな>

<まあ、普段はあまりできるような環境ではなかったからな>

<では、はっぁ!!>

 

黒い世界に青白い錬成反応が放たれた。すると一振りの短剣が錬成された。干将・莫耶の陽剣、干将である。エミヤの愛刀である。

 

<この剣の錬成は何かと、しっくりくるななんでだ?>

<それは私がいつも投影している剣だからだ。この剣の創造骨子には、夫婦の愛によって形作られ散る。互いに引き寄せ引き寄せられて始めて実現した名刀だ。この世界ではない別の世界の話だがな>

<そうか。これにはそういう歴史があるのだな>

<そうだ。この剣を今日、剣舞に利用する>

<この剣ならば、剣舞には最適だな>

<ではそろそろ、始まるぞ>

 

正面閲覧場に、大総統が現れた。

 

付き添いで来ていた軍人がマイルズに言った。

 

「錬成陣の準備は大丈夫かね?」

「はい。この通り大丈夫です。」

「では描きたまえ」

「了解しました」

 

そして、名刀"イシュヴァール"を錬成するための錬成陣を書き始めた。その錬成陣は普通の錬成陣とは異なり、やや魔術の魔法陣の描写を加えてある。これは事実上、錬成魔陣の魔法陣であるからだ。

 

マスタング大佐は、遠目からもその異様な錬成陣を見ていた。

「あれは、なんなんだ?ただの錬成陣ではないような」

 

そして書き終えた。それに手を合わせて錬成し始めた。床石から錬成したその剣はサーベル場になった。それを手に掛けて、大総統の方向に正眼に構えて、一言、言った。

 

「・・・Trace on・・・」

 

すると、普通の錬成した剣から、禍々しい妖光を放つサーベルに変わった。そして一言、マイルズは言い放った。

 

「真名・イシュヴァール、ここに強化完了した」

「その剣は、もしや、銘刀鍛冶・サイサリスの筆頭作品かね?」

 

大総統が予定通り食いついてきた。

 

「はい・・・」

「ということは、中央図書館の秘匿図書室に入ったのだな?」

「はい・・・・・・」

「はっはっはっ。そう緊張するでない。あそこの書物を理解できる者がいたとは、とても嬉しいことだからな」

「あの場所に立ち入った存在が、大総統と私だけだったとは、正直驚きました」

「まあ、そうだろうよ。・・・・・・あそこは、私の私的図書館だからな」

 

<なんだと!?これは予想外だな>

 

「そうだったのですか?すみません。とんだ無礼をしてしまいました」

「さっきも言っただろう?理解できる者が現れたのならば、読んでもらっても構わないと。伊達に試験の総責任者を担当しているわけでもないさ」

「ありがとうございます」

「では、その名刀が本当にサイサリスの物に同等かどうか、試験させてもらおう」

 

そういうと、閲覧席から飛び降りて、右腰に構えていたサーベルを取り出した。

 

「手合わせ願おうか。マイルズ小佐?」

「では、よろしくお願いします」

 

面食らっていた試験担当官が、冷静になって、試合の号令を叫んだ。

 

「・・・・・・試合、始めぇぇぇ!!!」

 

試合開始と同時に、マイルズとエミヤが交代した。エミヤは剣術において様々な手法を用いる凡庸な属性。その中でもカウンターを得意とする。

 

<ほほう。これはカウンターだな。私をおびき寄せる戦法のようだな。ならその手にかかってみよう>

 

大総統は、エミヤの戦法に乗ることにした。すると、瞬間的に素早く瞬足し、エミヤのカウンターの領域に入った!

 

「今だ!」

 

瞬時に抜刀し、返し刀で大総統のサーベルを折る、武器破壊のカウンターを放つ!しかし、大総統はその剣をまるでゆっくり観察するように、避けてカウンターの範囲内から脱出した。

 

「はー。はー。はーーー私の戦法を理解していましたね。大総統」

「ああ。カウンターとわかって入らせてもらったよ。君の剣の腕はどこで習ったのかね?とても良い師範に習ったのだろう?」

「はい。私の恩師は英雄と評された人物でした」

「ほう。それは上等な人物に師事を受けたのだな。良いことだ。にしても、まだ何かを隠しているのだろう?それを見せなさい」

「やはり、看破されましたか。大総統の前では私は裸同然ですね。では見せましょう!私の隠し技である投影術を!」

 

エド達は歓喜した。

「おっ!ようやくあの技を駆使するようだ!」

「楽しみだね、兄さん!」

「お手並み拝見となるな」

 

 

 

「私の錬成術はこれから行う術の劣化版です。この技が私のすべての原点です」

「ほう。では見せてもらおう」

 

大総統は、五歩ほど後ろに後退し、マイルズの周囲をよく見える位置に移った。

 

すると大気の流れがマイルズに集約する感じがした。そこにいる誰もがマイルズに注目した。いったい、これから何が始まるというのかという期待からだった。

 

「・・・I am the bone of my sowrd・・・」

 

一言、呪文詠唱をしたかと思うと、マイルズの周囲1メートルの範囲内に、円を描くように短剣が現れた。

 

そしてそれらが、ダンスをするかのように舞った。剣舞のように。

 

「これが、私の投影魔術の奥義です」

 

ダンスしていた剣達が、床の一点を焦点としてピタッと静止した。

 

「柔軟に剣の操作をすることができます」

「ほう。これは、これは。マイルズ君、それを私に放ってもらえぬか?」

「!?それでは、大総統の身が危険になりますので・・・」

「では、命令だ。マイルズ小佐。私を攻撃をするのだ!」

「了解しました。剣達よ、行けっ!!」

 

ザンッッッッッ!!ヒュンヒュンヒュン・・・・・・

 

十本の干将・莫耶がすべて急所を狙うように、大総統めがけて放たれた。

 

その一本一本を、大総統はそのサーベルではじき返した。まるで舞踏会のように、ステップをするようにサーベルを駆使していた。

 

最後の一本がはじき返されると、場内には拍手が自然とわき起こった。

 

エド達は呆然としていた。

 

マイルズの技を見ていたこともあったが、大総統の剣術にも驚いたからだ。

 

「すごい!俺も小佐みたいになれるんだな!」

「小佐もすごいけど、アレを全部はじき返す大総統もすごいんじゃないかな。兄さん」

「・・・・・・ふっ、とんだ掘り出し物を送ってきたようだな。少将は・・・」

 

マスタング大佐は、なぜアームストロング将軍が私のところに部下として送ってきたかの真意をすこしばかり理解したようだ。

 

「全部、急所を狙って放ったのだね?マイルズ君?」

「はい、大総統。実践を想定してすべて急所を狙いました」

「ほっほう。試験で緊張しているはずなのに、肝が据わっているな。まるで二人一組の存在と対峙しているような感じだったよ」

 

<!・・・まさか、看破されたのかっ???>

<落ち着け、マイルズ。比喩表現だ>

 

「まさか、私は一人ですよ。大総統」

「そうだな・・・そうだ。さきほど錬成した刀を、譲ってはくれないだろうか?」

「イシュヴァールをですか?」

「ああ、私も自宅に一本持っているのだが、さすがに携帯することはなくてな、先ほどの手合わせで同等のものだとわかったのでな、できるのならば、貰いたいのだが、どうだろうか?」

「大丈夫ですよ。私が錬成したもので満足頂けれるのならば、光栄です」

 

マイルズは銘刀を大総統に渡した。

「ふむ。輝きこそは本物が上だが、勝機を強くする効果と呪いの効果は再現できているようだな。ありがたく頂こう」

 

「いえ、大総統の目にかなう一振りならば、感謝です」

「うむ。では、午後の試験に備えたたまえ」

 

そうして、幹部を伴い、大総統は退席した。

 

<ふーっ・・・・・・お疲れさん、エミヤ>

<ああ、本当に疲れたよ。お手並み拝見だとはいえ、大総統は本物の殺気を放っていたのだからな。あれは真剣だったよ>

<確かに、大総統の前に居たのは我々だけだったから、周囲には気づかれなかったが、危ない橋を渡ったよ。もう二度と大総統とは手合わせしたくないほどだ>

<しかし、多分また手合わせする可能性があるだろうな>

<なぜだ?>

<あれほどの、剣術を使える者は、他にいないだろうよ。それに対応してしまったのだから、またお誘いがある可能性があるだろう。ここセントラルシティにいる限りな>

<くっ・・・・・・それは正直勘弁してほしい>

<まあ、大丈夫さ。私が表にでれば事済むことだろう?>

<そうなのだが、な。アレは二度と受けたくないものだよ>

<ふむ・・・・・・その時は私に任せてもらおう>

<ああ、頼りにしているぞ>

 

そうして、午前の部の試験が終わり、午後試験までの間は昼食の時間だ。食堂には、待ちかまえていましたというばかりに、エルリック兄弟とマスタング大佐が席をとっていた。

 

「ご苦労だったな、小佐。見事な剣技だったぞ。あの技は少将にでも習ったのか?」

「ええ、そうです。訓練の一環で何度か手合わせをしてもらいまいた」

「やはりな。少将の剣技は、東部での共同訓練の際にも評判が良かったのでな、もしやと思ったのだ」

「やっぱ、すごいですね!マイルズさん!」

 

エドは、興奮しているようだ。それはそうだ。眼前で錬金術ではないものを見せられ、しかも大総統と互角に戦えるということに。

 

「最初に行ったのが錬成魔陣だ。魔術の投影と強化を同時に行い、武器の精密な錬成を行う、戦闘を基本想定とした戦闘術だ」

「戦闘以外では、使えないんですか?」

「まあ、使えることには使えるのだが、時間がかかるのがネックなのだよ。故に一対一のような戦闘や乱戦での前線メンバーのサポートなどを想定しているんだ。日常的に利用するのならば、本来の錬成術のほうが効率が良いからね」

「そうか。戦闘用錬金術ということですね」

「そうだな」

「14時の試験まで時間があるが、先に食べてしまおうか。小佐、鋼の!」

「はい」

 

そして、さきに食事を済ませて、筆記試験会場の手前の待合室にやってきた。

 

「マイルズさん、筆記試験は余裕なんですか?」

「ああ、筆記試験は万全さ。難解な書物を読みあさって理解したからな」

「へぇ。確か、手合わせ中に私的図書館とか何とか、言っていましたけど、何だったんですか?」

「ああ、中央図書館にある秘匿図書館のことさ。あれは、どうやら大総統の私的図書館だったんだ」

「私的図書館!?」

「鋼の、声が大きいぞ。静かにしたまえ。たとえ私たちの他に誰もいない状況だとしてもだ」

 

そうなのだ。今回の試験はマイルズ小佐のための特別な試験のために、通常ならば他に受験者がいるはずだが、いない。だとしても、秘密を盗み聞きする者がいるかもしれない。

 

「・・・ごめん、大佐。確かに知られちゃ困る話もするかもしれないし」

「フフフ。はーっ試験の緊張がややそがれたが、安心したよ。ではそろそろ行ってきます」

「ああ、全力をかけるんだぞ?マイルズ君」

「頑張ってきてください!!(エルリック兄弟)」

「ありがとう。行ってくるよ」

 

そして、午後の筆記試験が始まった。想定していたほどの難易度ではなく、サクサクと進んだ。時間の半分は確認作業に割り振ることが出来た。応用問題にもすんなり解答できた。

 

そして完了。本試験はすべて終了した。

 

試験会場をでたマイルズは、三人に出迎えられた。

 

 

 

そしてその後の話は次回にて。

 

 

 

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どうも。天論です。

 

郊外の森で監視していたのは、まあわかるとおりラストですね。彼女以外にはいないでしょう。すでに目を付けられてしまいましたね。

 

ほぼ人柱に確定しましたね。

 

試験に合格することは、ほぼ確定ですね。二つ名は、もうわかっていますけど、その過程がどうなるか楽しみです。

 

この後に控える「傷の男」との遭遇が緊張しますね。

 

どうなることやら。過程を楽しんでください。

 

そんな感じです。

ではまた。